■スピーク文庫 「完結した夏」NITE & NITE
#01ありのままで生きてみる。

第1章 アクシデント
東京の空が夜でも明るく私を照らす。こんな小さな私を照らす。赤や青や緑のネオンの光が信号機の移り変わりの光が、デジタルの夢の中でさまよう私の心を暗い闇へ引き込んでゆく。
渋谷の街のビルの隅で、路上を行き来する人々の足音、ハイヒールの音、笑い声、そしてこの都会に似合わないストリートミュージシャンのフラメンコギターの音色がビルの狭間で奏でている。その古いスペインのフラメンコの音色は、この渋谷の街の雑踏の中で何の意味を持つ事も無く、ビルとビルの狭間へ反響してはこの夜の空へ消えてゆく。都会生活に疲れた私の寂しい心をよけいに奈落の底へ突き落とすかのような相乗効果が気に入っていた。名前も知らないミュージシャン。私の都会のオアシスの中に居る住人の一人でもある。

街の路肩にうずくまり、缶コーヒーを手にもち、道路に流れる雨を見つめる。人通りが途切れも無く私の前を通り過ぎ、雑踏の中で迷走する私の心を幾度も無く現実の世界へ引き戻す。
ここにいる事がそんなに好きなわけじゃないけど。なんとなく週末の夜に家にいると、とても寂しくて、とても切なくて、ここに足が向いてしまう。雨が嫌い。でもこんな時にここにいると雨が私の存在を消しさしてくれそうで、私を守ってくれそうで、なぜだか私は気が休まった。誰のものでもないこの場所で、誰にもなれないこの存在感。今の私自身を忘れさせてくれる大切な私だけの時間になっていた。こんなところで私は何をしているのだろう。何しにここへ来たのだろうって、ここにくるたびに考える。でも、こんな事をして半年間。そんな事はもう気にしなくなっていた。最初に東京に上京したときには、多くの人々の目に恐怖感さえあった私が、笑っちゃうよね。人に関して今はぜんぜん無感情、無関心になったのだから。
都会に住むと、人が恋しくなる。都会に住み慣れると人が嫌いになる。
でも、また人は人を追い求める。そんな繰り返しが、都会に住む人の生きる様なのかもしれない。今の一人ぼっちの自分が大嫌い。こんな私が大嫌い。ただ涙が流れる。

雨の水溜りに波紋が消えた。空を見る。どんよりとした青黒い東京の空が、街のネオンの光に照らされて世界の風景には無い東京独特のカラーが私の心を重くする。でも雨が晴れた瞬間に私の心は少し元気になる。この頃の私は、ほんの些細な事で気分を害したり、上がったりするのが毎度のことだった。指とつめの間を見つめていると、淡い白い光が私のつめを照らした。
ハイヒールの靴音が私に近づいてくる。雨上がりの水溜りをよける気配も無く、アスファルトと雨の上を叩くような足音が私の前で止まった。私は静かに顔をあげると。そこには髪の長いスレンダーの女性が腕を組んで仁王立ちしていた。彼女の背後から白い車がヘッドライトをまぶしく照らし、私にはその女性が誰なのか、顔さえみえなかった。
顔に片手をかざし、目を細ばめ見上げると、要約その女性の表情が見えそうだった。その瞬間 私の後頭部に強い衝撃を感じた。なにか固く重いもので頭を殴られたのだろう。
彼女の顔を確かめる前に私は気を失っていた。
ヒップホップの音楽の小さなベース音から耳鳴り交じりに大きなベース音に変わっていきながら私はゆっくり目が覚めた。車の中の後部座席にいた。黒い革張りのシートに横たわりながら私はとても大きい車内の様子を伺った。運転席と助手席には2人の女性がタバコをふかし運転していた。息を潜めながら後部座席で気を失った振りをしていた私を見ながら、助手席の女が喋る。
女「この子、どうするの?」
運転席の女「・・・・・。」
女「やばいんじゃないの うちらのトコ連れてきたんじゃ。ねえ 袋で降ろそうよ。」
運転席の女「だめだめ、そんなことしたらアタイ達が締められちゃうよ。」
女「そっか。・・・・・・。」
沈黙の中、車はゆっくり走っている。
どうやら、この2人はだれかに指図され私を拉致したに違いない。でも 何のために。
手には手錠を掛けられ、目にはアイマスクをさせられていた。
私は薄目を強く締めなおし耳に神経を集中させ、今、車がどこを走っているのか確かめていた。
車内の香りはジャスミンの香りと高級車の皮シートの匂いを感じていた。
携帯がなる。今 流行のじゅじゅの曲が静かな車内に鳴り響いた。
その着メロで、私の心は恐怖から安心へと変わった。
女「ちわーっす。はい。そうなんですよ。あたいもこまっちゃって。はい。んじゃ、そっちへむかいます。」
携帯をきる。
女「もう?。しょうがないな。戻れって。ねえ。聞いてる。代々木にもどれっていわれたよ。」
運転席の女「え?。なんなのそれ?。いつもこれだよね。」
そういいながら車をゆっくりユーターンさせ、また走りだす。
30分ぐらいだろうか、車はゆっくり止まった。
女「ちょっと、行ってくる。」そういうとドアを強く締める。
運転席の女「ねえ。起きてんだろ。どう、頭。けんじのやつまた強くなぐってたけど。ごめんね。
悪気はないんだよ。ただ上のやつらからいわれてあんたをら拉致ったんだよね。」
「まあ、渋谷の町はあたいらの島だからさ、あんなとこで居座られちゃ警察の目についちゃうし、あたいらの事(仕事)のじゃまになるからさ。」「聞いてんだろ?・・・・まあ いいけど」
女は、またタバコを吸いはじめる。」車の車内に煙が舞う。
私はおまわずタバコの煙に蒸せ、咳き込む。
女「大丈夫?わりいわりい。」そういながら 車の窓をあける。
自動ウインドウの開く音が、夜の静かな街の空気とまじあいなにか新鮮な気持ちに駆られていた。
自分が誰かに拉致された事を忘れさせてくれた。
女「わりいわりい、遅くなっちゃった。なんかすごいのいかされてさ、飛び飛びなんだけど。ここで、この子降ろせって。それでまたアタイ渋谷にもどらなきゃ。ねえさんはいいって。ここでこの子の世話してくんない。アタイは朝までにはもどるからさ。」
運転席の女「んん。わかった。足あんの?」
女「うん。たく(タクシー)るから。」そういうと女は足早に消えた。
運転席の女「ねえ。きいただろ。降りるよ。」そういうと後部座席のドアを開ける。
私はゆっくり彼女を見ながら起き、車からでると、女はいきなり左手の洋服の袖を握り締め強く私を導く。私はされるがままについていくしかなかった。
見た感じ倉庫のような建物が目の前にあり、黒い鉄のドアをゆっくり女はあけた。
音楽が鳴り響き、バーのような内装の場所だった。とても古く誇りっぽい匂いが鼻をついた。
袖をひっぱられながら、穴だらけの古いソファーに強引に座らせられた。
10畳ぐらいの小さな部屋は、コンクリートの黒い壁に安物のシャンデリアが吊るされ、青と赤でライティングされ、左手には大きな鉄の扉。右手には古い木のテーブルと、一人がけの黒いチェアーが備え付けられていた。壁には大きなスケジュール表とDJライブのポスターやフライヤーが無数貼られていた。
続く。

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