時の流れのままに、、、。

Posted on, by | 10月 1, 1998 | | No Comments

第4章

走り出したクルマの揺れがやけに気持ちよく、良平はいつしか深い眠りに落ちていた。窓から降り注ぐ、初夏の朝陽が心地イイ…….
と、思っていた。すると突然、激しい振動が彼のカラダを襲った。戻りつつある意識のなか、良平はおぼろげにかすむ目をゆっくりと開けた。外は、というか目の前はまだまっ暗だった。いや、よくみるとミラーボールに反射した色とりどりの光が闇のなかをまわっている。そういえば脳ミソにつき刺さりそうな高い音も聞こえるし、ウーハーから響く50メガヘルツの低音が、心臓の鼓動に共鳴するようにカラダの芯まで伝わってくる。どうやら、さっきの店にまだいるようだ。
徐々に意識が回復してくると、右の頬にやわらかな熱を感じた。
「あのぉ、大丈夫ですか?…….」
小さな亜ロウソクを持ったショートボブの女のコが心配そうに覗き込んでいる…….
「あっ、うん… だいじょぶだけど…….ココって…….」
「さっきDJブースで会ったじゃない」
そういえばブースに女のコがいたことを思い出した。
「俺、ずっとココにいた?」
「たぶん……」
少し首をかしげ、キョロッとした目を猫のように不思議そうにさせながら彼女はそう答えた。
「座ってもいいですか?」
「あぁ….、ごめんごめん….」
場所をつくると、ニコリと笑いながら彼女は腰を下ろした。黒いスリップドレスがよく似合う。
「あの、タバコ取ってもらえます?」
目の前のテーブルの上に彼女のメンソールタバコがあった。もともと彼女が座っていたソファらしい。
「あぁ….、ごめんごめん….」
もう一度そういいながら良平がタバコの箱を渡すと、
「吸います?」
そういいながら、今度は彼女がその箱を、
「大麻じゃないですよ(笑)」
そんな冗談を付け加えながら差し出した。
良平は笑いながらそのうちの一本をくわえ、彼女が持っていたロウソクで火をつけるとゆっくりと深呼吸をしながら、これまでの時間の流れを遡った。
『バイクでここまで来て..、DJブースに呼ばれて…、なんか食わされて…、そんでもって……….★◎♂♀!初めての体験?!あんなことやこんなことしそうになっちゃったアレって?…………..』
ひとりアタマを抱えながら悩んでいると、横で彼女が、良平の口からどんなコトバが飛び出すか、猫のようなあの瞳を今度は興味津々そうにワクワクさせながら様子を伺っていた。その期待に応えるように良平は、
「さっき会ったよね?……」
そう尋ねた。
「はい….」
「それってどれくらい前?」
「どれくらいって……..いまさっきじゃないですかぁ!覚えてないんですかぁ?あれぇ?目ぇまっ赤かですねぇ、もしかしてぇ??ふふっ」
彼女は人なつっこい笑顔で微笑んだ。どうやらほんの数分間、夢をみていたらしい。その夢のハナシを聞きたいというので、その、気を失っていた時間に起きた出来事を説明すると、
「ホントはそういう願望があるんじゃないですかぁ?」
彼女は笑いながらタバコの煙を燻らせた。完全に意識が戻った良平もまたタバコを口にした。
「いやぁ、マジでヘンな夢見ちゃってさ(笑)。で?アナタ誰?」
「ユナ。よろしくね」
そういって彼女は軽く会釈をした。
「ユナちゃんね。よろしくね。何か飲む?」
「テキーラでもいっちゃってみます?」
真顔ではあったが、目は笑っていた。
ショットを一杯ずつ空けたふたりは、さっき出会ったばかりとは思えないほど意気投合し、会話がはずんだ。はずむ会話の勢いに乗って、良平はついいつものワケのわからなぬ口癖を、こともあろうか初対面の彼女にぽろりと口にした。
「温泉いきたいねぇ」
「アタシも温泉好き!行きたい行きたい!」
そんな反応につられて、良平はさらにそのつづきを続けた。
「今からロマンスカーに乗ってロマンスの旅なんてどう?」
「イイんじゃない?ス・テ・キ」
彼女は手を叩きながら喜んだ。
「うそ!?マジで?マジで行くなら行こうよ」
「イイよ。楽しそう。じゃあ荷物取ってくるからちょっと待ってて」
いつもの軽い冗談が、ついに現実の出来事となる日がやってきた。

「バイク、あとで取りにくるからよろしくね」
外にいた店の若いヤツにそういうと、
「良平さん、そんなキレイなコと今からドコ行くんですか?しかも家、逆ですよ、ギャク!」
若い衆はふたりの進行方向と反対を指差してそういった。
「ん?温泉行くの、オ・ン・セ・ン。まんじゅう買ってくるから。じゃね」
そういいながら軽く手を振った。
外は日差しが眩しかった。それは虹色に輝いていた。
「アメ、食べます?」
そういいながら彼女は、さっきDJがくれたのと同じカタチだけどちがう色のアメ玉をくれた。彼女の目もキラキラと輝いていた。
新宿始発のロマンスカーに乗るために、ふたりは恵比寿駅に向かって歩きはじめた。ロマンスの旅の行き先は箱根湯元か小田原か。それはふたりにもわからなかった。

………続く。

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